日本歌謡学会の沿革【第1回】

本会名誉会長 真鍋昌弘より「日本歌謡学会の沿革」と題して、数回にわたって連載してまいります。第1回は本会の創立期についてです。

第1回 日本歌謡学会創立

〔1〕

 昭和38年11月30日、12月1日の2日間、日本歌謡学会創立大会が、國學院大学大講堂において開催された。近現代において、歌謡に関する蒐集・研究は、個々の研究者によっても、その成果は着実に積み重ねられてきたと言えるが、しかしそうしたそれぞれの研究者が、お互い協力しあい学びあい、進展の情報を共有し、より進化させ認識を広域化させ、歌謡学の振興に寄与する基盤となる学会は、いまだ無かったのである。因みに第1日目の講演プログラムを、次に引く。歌謡というジャンルの研究成果やその課題を、それぞれの立場から、わかりやすく話された。

  • 開会の辞

    國學院大学教授・臼田甚五郎

  • 講演

    1.山梨大学教授・志田延義「日本の歌謡」
    2.町田嘉章「民謡採集白書」
    3.國學院大学教授・金田一京助「歌謡の始源」

  • 実演

    挨拶・NHK放送文化研究所々長・片桐顕智
    1.「平安朝時代の今様歌の伝承と実演」(解説・芝祐泰)
    2.「奄美の民謡と八月踊」(解説・本田安次、奄美芸能無形文化財保存有志)

  • 閉会の辞

    東洋大学教授・市村宏

  • 創立総会

 2日目も第一線で活躍する9名の研究発表が滞りなく行なわれ、実演もこの学会には大切な要素であることを印象づけた。真鍋は熱気の籠もった満員の会場の後方座席で、「うた」というものの課題の多さと、混沌としたおもしろさを思いながら先学諸氏の講演・発表を聴いていたことを思い出す。この創立大会について、臼田甚五郎氏は、後日の、創立30周年記念『日本歌謡研究現在と展望』(平成6年刊)の序文「日本歌謡学会の創立を慕ひて」の中で、「学会として、特異な学術雰囲気を、満場に沸き立たせて、学会の出発を祝っていただきました」と述べておられる。歌謡は、たしかに文学・リズム・芸能から、歴史・思想、そして地理・気象にいたるまで、その本質として抱えている文化なのである。したがって研究の課題や方法は多様で広いのである。

〔2〕

 創立大会が、総会まで段取りよく行われたのは、やはり当時、中心となって準備に協力された先生方の誠意ある牽引力のおかげであることに感謝せねばならない。昭和35年頃から、地方の研究会とも連携のとれる、中心となる学会が必要であるという声はあがっていたと言われており、志田延義著作集『歌謡圏史・Ⅳ』(昭和57年)所収の「日本歌謡学会創立まで」によると、昭和37年10月、中世文学会が開かれた機会に、歌謡に有志ある方々が、具体的に学会のことを話しあい、昭和38年には國學院大学に集まり、創立準備委員会が生まれ、事務局は臼田教授研究室に置くことが決まった。そして学会顧問は、志田延義を介して、佐佐木信綱先生にお願いしたところ、快諾を得たのであった。

 日本歌謡学会が、始動するにあたって、志田延義氏は、上記著書で次のように話されている。「取りあえず、それぞれ歌謡に関するテーマを持つ者が集まって、刺激し合い励まし合い協力して成果を挙げ、われわれの明らめつつある日本の歌謡とはどんなものであり事象なのであるかを言おうとする集団であるから、研究対象なるものの範囲を、始めからあまり窮屈に絞らぬ方がよい」と。その路線で、いま、令和元年を迎えた。

(日本歌謡学会名誉会長 真鍋昌弘)

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